膝の関節液は抜くべきか
湯浅 駿
膝に関節液が貯留している患者さんを診察したとき、皆さんはどうしていますか?
どこかで教わったわけではありませんが、膝に痛みがあるなら抜けばいいと考えて、今までは何のためらいもなく関節液を抜いてきました。経験上も、それで痛みが軽減することが多かった気がします。しかし本当にそうなのでしょうか?
ふと疑問に思うエピソードがあったため、エビデンスを確認してみることにしました。
先日プロスポーツチームの帯同をした際の、診療所内での話です。定期的に膝にヒアルロン酸注射を行っている選手の診察を依頼されました。膝を触ってみると膝蓋跳動を認め、エコーで関節液の貯留を確認しました。関節液を抜くか提案しようとして、突然不安になりました。相手は今日も試合に出ているアスリートです。万が一、関節液を抜いたことで明日満足にプレーできなくなったらどうしよう。そんな不安が頭をよぎります。
本人も今まで関節液を抜いたことはないと言うので、その日はいつものヒアルロン酸注射のみを実施することにして、関節液の話は宿題とさせてもらいました。
原因
膝に関節液が貯留する原因は、急性経過であれば、外傷や関節炎を第一に考えます。慢性経過であれば変形性関節症が主な原因です。
アスリートに関しては、女性アスリート53名を対象とした研究があります。関節液貯留の原因として、トレーニングによる負荷や、膝の微小な外傷が報告されています。無症状でも関節液が貯留しているケースも一定数いるようです。(*1)
関節液を抜くべきか
本題に入ります。前述した原因により関節液が溜まっている人の関節液を抜いてもよいのでしょうか?
膝の関節液が貯留した167名を対象としたランダム化比較試験があります。関節液貯留の原因は外傷から診断不明まで様々です。関節液を抜いた群と、抜かない群に分けて比較したところ関節液を抜いた群で、短期的には疼痛が緩和する結果が得られました。しかし、1週間程度で関節液が再度貯留し、痛みや可動域は関節液を抜かなかった群と変わらない結果となりました。(*2)
この結果から、スポーツ選手の大事な試合前に関節液を抜くことは考慮できそうです。一方で関節穿刺による感染のリスクを踏まえると、原因を特定せずに、穿刺を繰り返すことは避けたいところです。
もう一つ別の視点の研究を紹介します。
9名の被験者の膝に生理食塩水を注入して、人工的に関節液を貯留させ、筋力等を調査した研究があります。関節液の貯留により、大腿四頭筋の活動が低下することが示されました。「関節液の貯留は膝周りの負荷を増加させ、将来の膝関節の外傷や変形のリスクを高める可能性がある。」と結論付けられています。
関節液貯留による長期的な影響も加味する必要がありそうです。(*3)
結論
・結局は関節液が貯留している原因次第。
原因を特定、対処しないと、抜いても再貯留する可能性がある
・大事な試合前の疼痛緩和には、関節液を抜くことが有効な可能性がある
*1:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40145574/
*2:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23334623/
*3:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17244901/


