そのフェリチン低下、本当に「スポーツ貧血」?
記載者:上村公介
「フェリチンが低い=スポーツ貧血」と、採血の数字だけで一喜一憂していませんか。実はフェリチンという数値、もう少し慎重に付き合う必要があります。
フェリチンは「その日の体調」でも動く数値
フェリチンは体の炎症や感染、激しい運動による筋肉のダメージなどでも変動する性質を持っています。つまり、体調やその日のコンディション次第で多少は上下する数値であり、一回の採血の結果だけで判断できるとは限りません。実際、鉄が足りているかどうかの基準となる数値(カットオフ値)についても、専門家の間で明確な統一見解はまだありません。
「チームメイトがこれくらいまで上がった」は当てはまらない
外来で「チームメイトはフェリチンがこれくらいまで上がったと言っていました」という話を聞くことがありますが、鉄の値は個人差が大きく、他の人の基準がそのまま自分に当てはまるとは限りません。
上がらないなら、一旦やめる勇気も
鉄剤を飲んでいるのに数値が全然上がらないと相談に来てくれる選手もいますが、そのときは漫然と飲み続けるのではなく、一旦中止してみる勇気も必要です。中止しても下がってこない方もいます。逆に、次の採血でフェリチンが多少下がっていたとしても(例えば10ほど)、鉄そのものやヘモグロビン(Hb)が下がっていなければ、あわてず様子を見るという判断も大切です。
鉄を飲めば本当に調子が上がるのか
貧血がある場合は鉄剤の効果ははっきりしていますが、貧血のない軽い鉄不足の場合、数値は改善しても実際の運動能力(最大酸素摂取量など)が上がるという証拠は、実はそれほど一貫していません。「調子が良くなった」という感覚だけでは、本当に鉄剤の効果なのか、プラセボ(思い込みによる効果)なのかを見分けることはできません。専門家の団体(ACSM)も、はっきりした鉄不足の根拠がないまま漫然と鉄剤を使うことは推奨しないとしています。
食事量そのものが原因のことも
練習量に見合うだけの食事が摂れていない状態(低エネルギー状態)も、鉄不足を悪化させる要因になり得ます。鉄剤を足すだけでなく、食事量全体を見直すことも大切です。エビデンスは強くないですが、筋肉量が少ないとフェリチンも低値の傾向があるという報告もあり、全体としてのエネルギー不足や筋肉量不足が影響し、フェリチンが低めになっている可能性はあると考えています。
コメント
フェリチンは一度の採血や周りとの比較で一喜一憂する数値ではありません。飲んでも上がらないなら、いったん中止してみる勇気も必要です。逆に多少数値が下がっても、鉄やヘモグロビンが下がってこなければ、シーズンの時期によって、あわてず様子を見る判断も大切だと考えています。
参考
1. Thomas DT, Erdman KA, Burke LM. American College of Sports Medicine Joint Position Statement: Nutrition and Athletic Performance. Med Sci Sports Exerc. 2016.
2. Šmid AN, Golja P, Hadžić V, et al. Effects of Oral Iron Supplementation on Blood Iron Status in Athletes: A Systematic Review, Meta-Analysis and Meta-Regression. Sports Med. 2024.
3. De Souza MJ, Strock NCA, Ricker EA, et al. The Path Towards Progress: A Critical Review to Advance the Science of RED-S. Sports Med. 2022.
4. Auerbach M, DeLoughery TG, Tirnauer JS. Iron Deficiency in Adults. JAMA. 2025.


